「痛み」って何者ですか?~その漆(七)~
毎月1回お届けの整体コラム2020年3月号をお届けします。
*整体に整体師は要らない!?*3月号 「痛み」って何者ですか?~その漆(七)~
日ごとの極端な寒暖差、この冬は少し異常ですね。本当に寒くならないまま春になってしまうのでしょうか。2月が暖かくて3月になってから急に寒くなった昨年を思い出したりしますが…。
1月〜2月にかけてしっかり寒い日が連続してくれませんと、基礎代謝が上がり切らないまま春を迎えることとなり、四季と連動するプログラミングが施された我々日本人のカラダのコンディションは迷走しやすくなります。
&新顔のウィルスに対してもかなり心配されていることと思います。花粉症の知人が「今年は花粉症とか言ってる場合じゃないっすよぉ!」と言っておりましたが…。
この春は呑気になれない春かなぁ、と思ったりする今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょうか?
引き続き「痛み」についての考察をしていきましょう。
前回コラムの巻末で予告しましたとおり、「心理的逆転(しんりてきぎゃくてん)」が作り出す慢性痛について、ご一緒にお付き合いください。
時に人間は、病や不具合の中にあって「治りたい」と「治りたくない」という相反する望みが同居してしまうことがあります。
自覚している意識(=顕在意識)としては「治りたい」であるのですが、心の奥にひそむ意識(=潜在意識)としては「治りたくない」が、同時に存在してしまうのです。
そんな状態を「心理的逆転」と呼ぶのですが、この「心理的逆転」が起こりますと、直ぐに治る筈の病気や、速やかに治まる筈の痛みが、思いのほか長引いてしまったり、日を増すごとにその症状が重くなってしまったりしてしまうことになります。
例えば、僕の臨床において、よくこんなケースがあります。
たまたま僕の施術を受けることになったお客さま…初めは慰安目的を主張していましたが、インテークしていくうちに本当に困っている事柄を明かしてくれます。
「実は右の股関節が○年以上前からずっと痛くて、…これ以上開かないんですよ」とのこと。さぁ、ここで「なるほど、了解、お任せを!」「では宜しく!」という具合に、意気投合してセッションのスタートが切れれば、シンプルで望ましい結果も大いに期待できるパターンです。
が、今回はそうはいきません。その後もその方の言葉が続きます。
「…でも、これまで何年もの間、色んな所に行っては、色んな方法で治療して…多少は善くなったかなぁって感じはしますけど、これ以上は限界かなぁと…今日はカラダ全体をほぐしてください」
このような❝本来の主訴諦め系❞のお客さまは、実は結構な頻度でいらっしゃいまして…でも、聞いてしまったからには「どうにかしましょう!」というのが僕の信条ですので、股関節改善のアプローチも組み込んだ施術をすることになります。
で、その結果、一回の施術でその長年の問題が解決した、或いは今までにない改善を見せたとします(手前味噌で恐縮ですが、実際かなりの確率でそうなります)…が、この方が心の底から喜んでくれる確率というものは、決して100%では無いのです。
さて、もしこの状況に置かれたら、大抵の人は2つの気持ちが入り交じるのではないでしょうか?
「今日ここに来て良かった。とても嬉しい」という気持ちと、
「今まで何やっていたんだろう。とても悔しい」という気持ちと…。
つまり、この結果を受け入れるということは、「今まで掛けた時間と費用の多くが無駄であった」「これまでの行動が適切ではなかった」ということを認めることにも繋がります。
ここで、現在の嬉しさと、過去に対する悔しさ、そのどちらに軍配を上げるか葛藤が始まります。
この葛藤は、こうした状況に置かれれば、誰であれ普通に起こる心理現象なのだと思いますが、結局は多くの人のカラダがその施術結果を受け入れ、改善した状態を保持してくれます。
が、その一方で、カラダがその結果を跳ね返してしまうという人も少なからず居ます。
潜在意識のもとで、過去に対する悔しさが、今現在の嬉しさに勝ってしまい、結果、このうちの何割かの方は、残念ながらその後も不具合の感覚や痛みと付き合い続けることとなってしまいます。
そしてその中には、一旦は改善をしたのだが、また時が経つに連れ…という、❝ぶり返し型❞の人も居るのです。
痛かった頃を思い返すうちに「長年自分を苦しめた股関節の不具合は、自分の的確ではない行動が作り出したもので、そもそも長期化するべきものではなかったのだ」という、後悔の念が発現しないよう、無意識のうちに改善していない状態の再構築がなされていくのです。
再構築されるのは感覚にとどまらず、物理的な体型の変異などもそうなるのです。不思議と思われるかも知れませんが、「イメージはカラダを動かす」のです。これは整体師である僕が、日々目の当たりにしている事実なのです。
何れにしましても、痛みを持ち続ける、或いは呼び戻してしまうそれらの方々に共通するのは、後悔するということにとてもネガティブなイメージを持っていて、そうならないことに執着するあまり、「今」と「これから」に義理立てするエネルギーより、「これまで」に人情を傾けるエネルギーの方が強くなりがちな傾向を持っている、といところです。
整体師という仕事を続けていますと、自分が本当に望んでいる状態がどんな状態なのかを認識できている人間は、実はかなり少ないのかも知れない…と、そう思ったりしてしまうのです。
…いやはや、人間とはかくも複雑な生き物なり、なわけです。
さて、次回は「心理的逆転」のちょっと複雑なケースを、ある一つの臨床例から見ていきたいと思います。
それではまた来月、ここでお逢いしましょう…
★3月号をお読みいただきありがとうございました。皆さまのご健康を心よりお祈り申し上げます。
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